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神奈川会議の禁煙・受動喫煙防止コラム

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禁煙、受動喫煙防止活動を推進する神奈川会議 20周年記念誌 第一部 会長よりのメッセージ

かがみ

はじめに

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を踏まえ、健康増進法が改正され、国レベルでの受動喫煙防止対策がようやく進展した。「禁煙・受動喫煙防止活動を推進する神奈川会議」(以下、神奈川会議という)の前身である「禁煙・分煙活動を推進する神奈川会議」(以下、旧神奈川会議という)が平成11(1999)年11月に設立され約20年が経過したので、その歩みについて振り返るとともに、今後の方向性についても言及する。

旧神奈川会議の発足

 旧神奈川会議の設立された当時は、喫煙が呼吸器疾患、循環器疾患、発がん等々の健康障害の明白なリスクファクターであるにもかかわらず、若者の喫煙増加が顕著となりその一方では喫煙者の7割が禁煙を希望しながらもニコチン依存症から脱皮できずに挫折しているという現状認識があった。このような現状打破を目指し、医療現場のみならず広く地域における禁煙、分煙指導の実践を中心とした、効果的な禁煙指導の普及等を目的とした研究会として、旧神奈川会議が発足した。発会世話人として、中山脩郎神奈川県内科医会会長、渡辺古志郎横浜市立市民病院呼吸器内科部長(現横浜市立市民病院名誉院長)、北条延捷テレビ神奈川営業局参事の3名がご尽力された。
初代会長は、五島雄一郎東海大学名誉教授(日本禁煙推進医師歯科医師連盟会長)、副会長には中山脩郎氏と渡辺古志郎氏が就任されている。理事には、県内大学医学部の公衆衛生学教授や内科学教授、循環器内科教授、さらには、県医師会長、横浜市医師会長、国立療養所神奈川病院院長等に加え、県看護協会常任理事、テレビ神奈川営業局参事、神奈川新聞社企画開発本部本部長、幹事には県歯科医師会副会長と聖マリアンナ医科大学薬剤部長等12名の役員が名前を連ねている。
 平成11(1999)年11月5日の第一回研究会では、五島会長を座長に、「ニコチン依存と禁煙指導」という演題で、東京衛生病院名誉院長の林高春氏に講演していただいた。

分煙活動から受動喫煙防止活動へ

平成15(2003)年に故五島雄一郎氏の御遺志を引き継ぎ、中山脩郎氏が、第2代会長に就任され、平成29(2017)年4月にご逝去されるまで、神奈川会議の運営にご尽力された。特に、神奈川県教育委員会への「学校敷地内禁煙化への要望」や神奈川県への「神奈川県の公共的施設における受動喫煙防止条例」の制定に向けた活動など、行政への働きかけも積極的に行った。その間、平成28(2016)年6月の総会において、たばこの健康被害が本人のみならず、他人への健康被害をもたらす(受動喫煙)ということが、一般市民に確実に浸透されつつある時代の流れを反映し、「禁煙・受動喫煙防止活動を推進する神奈川会議」と名称変更した。平成30(2018)年6月より現体制となり、役員は、会長1名、副会長4名、常任理事7名、理事32名、会計1名、監事2名となっている。
また、平成20(2008)年2月には、中山会長を大会長に「禁煙社会に向けて第二の開国を!」をテーマに第17回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会(横浜)(2日間 参加者数450名)を開催した。市民公開シンポジウムでは、「公共的施設禁煙条例で考える健康と喫煙」をテーマに、タバコ煙評価基準の問題、レストランを全面禁煙した理由、首都圏初の全県での禁煙タクシー実施についてなど3名の講師から興味深い話を伺った。さらに、10年後の平成30(2018)年2月には、長谷章理事を大会長に「神奈川から、あらゆるタバコの根絶を目指して!」をテーマに第27回同総会(1日間 参加者数191名)を開催した。市民公開講座では、「新型タバコも『吸い込めサギ』!もうだまされないヨ」というテーマで医師でもある高岩寺住職の来馬明規氏に講演をいただき好評を博した。

神奈川会議の活動について

 神奈川会議は、平成31(2019)年3月31日現在、個人会員159名、法人会員11団体で構成されている。個人会員の内訳は、医師62名、歯科医師18名、薬剤師25名、看護師等10名、教育関係者7名、法曹界3名、マスコミ4名、地方議員16名等と多岐にわたっている。
具体的な活動としては、年に1回の総会とそれに引き続き広く県民を対象とした講演会を開催するとともに、年に2~3回の常任理事会及び理事会において役員相互の情報交換を積極的に実施している。またホームページ(平成17(2006)年3月開設)でも情報発信をしている。
令和元(2019)年6月の第21回総会・講演会では三つの重要なテーマを選び、県民を対象とした講演をそれぞれの専門の講師にお願いした。まず、行政から「改正健康増進法と神奈川県受動喫煙防止条例の改正について」という演題で、神奈川県健康医療局前田光哉技監兼保健医療部長に講演していただいた。次に、新型タバコについて「新型タバコの本当のリスク」という演題で大阪国際がんセンターがん対策センター田淵貴大疫学統計部副部長に講演していただいた。さらに循環器内科の専門医の立場から「心血管疾患とタバコの関連について」という演題で横浜市立大学附属市民総合医療センター海老名俊明臨床検査部長に講演していただいた。
また、会員は、それぞれの地域で学校、職場での禁煙・受動喫煙防止教育、医療従事者等の専門職を対象とした研修、イベント参加等積極的に取り組んでいる。(図1)
平成30(2018)年度の学校関係の禁煙・受動喫煙防止教育の取組実績は、小学校4回(307名)、中学校20回(3,140名)、高等学校9回(1,831名)、大学3回(1,170名)、医療系大学6回(715名)、その他学生4回(250名)、PTA・教育関係者4回(250名)、合計50回(7,714名)となっている。また、地域関係13回(1,084名)、職域関係28回(2,023名)、医療関係49回(4,515名)となっており、啓発全体では合計140回(15,336名)となっている(表4、図2)。その他イベント等としては、かながわ卒煙塾(主催:公益財団法人かながわ健康財団・神奈川県)への講師派遣6回、かながわ卒煙サポートセミナー(主催:神奈川県)への講師派遣1回、健康チャレンジフェアかながわ2018への参加となっている。
行政との関わり合いとしては、「かながわ健康プラン21推進会議」「神奈川がん克服県民会議」「健康横浜21推進会議」に委員として出席している。

神奈川会議20年の振り返りと今後の方向性(表4 図2 表1)

 神奈川会議が発足した頃の神奈川県の成人喫煙率(平成13(2001)年 国民生活基礎調査)は、31.5%(男性47.2% 女性16.3%)となっており、低下傾向にあったとはいえ、特に男性は二人に一人が喫煙者であり、たばこ対策は公衆衛生上の観点から最も重要な課題の一つであった。国でも平成9(1997)年の厚生白書に「たばこは健康問題」と記載、さらに「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の検討を進めていた平成11(1999)年11月に、効果的な禁煙指導の普及を目的に医師を主導とし、医療関係者やマスコミ関係者等で様々な職種を会員とする「旧神奈川会議」が発足した。
 普及啓発活動としては、当初は、小学校、中学校、高等学校等における禁煙・防煙教育や禁煙指導者講習会、横浜市と共催での「たばこフォーラム」等を中心に行っていた。その後、対象も徐々に拡大し、大学や看護学校、PTAや教育関係者、さらには事業所・団体からの職域保健の領域からの要請にも応じて禁煙・受動喫煙防止教育を行うようになってきた。
 その後の国の動きとしては、平成12(2000)年に健康日本21をスタートさせ、平成15(2003)年5月には受動喫煙防止対策(努力義務)を盛り込んだ健康増進法施行、平成17(2005)年2月の「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の発効へと続く。条約に基づき、広告規制の強化(平成16年~)、禁煙支援マニュアル作成(平成18年)、禁煙治療の保険適用(平成18年)、TASPO(成人識別機能付き自動販売機)の全国導入(平成20年)などが始まってきた。また「受動喫煙防止対策について」(健康局長通知)(平成22年)、たばこ税増税(平成22から)等々ゆっくりではあるが、たばこ対策が進んできている。
平成24(2012)年には健康日本(第2次)で「成人の喫煙率の減少」の数値目標(「喫煙をやめたい人がやめる」平成34年度目標12%)がようやく設定された。神奈川県においても県民健康づくり運動「かながわ健康プラン21(第2次)平成25年度~平成34年度」において、喫煙に関して「成人の喫煙率も減少」を目標に掲げ、平成34年度の目標値(男性21.5% 女性4.4%)を設定している。(表2)一方、横浜市も「第2期健康横浜21(2013~2022年度)」の中で、成人の喫煙率12%を目標値として掲げている。(表3)
平成30(2018)年には健康増進法が改正され、令和2(2020)年東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて受動喫煙防止対策(罰則付き)がスタートした。この間、神奈川県においては、当時の松沢成文知事の強いリーダーシップのもと、学校から飲食店まで、公共的な施設を対象とした全国初の「受動喫煙防止条例」が平成21年3月に成立している。
 神奈川会議としては、こうした行政の動きを先取する形で、また後押しする形で要望活動等も積極的におこなってきた。その主なものとして、県や市の教育委員会への「学校敷地内禁煙化の要望」(平成16年)、県教育長への「青少年の喫煙防止への提言」(平成22年)県医師会には「学校医の児童・生徒・学生への受動喫煙防止の教育提言」(平成22年)を行った。また県への「受動喫煙防止条例制定に向けての要望」(平成20年)、「神奈川県における未病を治す神奈川宣言」の取組に「喫煙対策」を追加することの要望」(平成27年)を行うとともに、横浜地方裁判所へも「喫煙室撤去の要望」(平成28年)を行った。また、神奈川会議が主催した大規模なフォーラムとしては、平成20年9月に「クリーンエアの集い in KANAGAWA 神奈川県公共的施設禁煙条例を全国のみんなで考えよう」(参加者500名)があげられる。
 タバコの価格も値上げされ、健康増進法も改正され受動喫煙防止対策も強化されるとはいえ、我が国のたばこ対策は、世界標準からはまだまだ遅れをとっている。喫煙率の低下にやや歯止めがかかり、特に神奈川県においては、女性の喫煙率が全国ワースト4位となっている。また、新たな健康危機事象として、加熱式タバコの台頭があげられる。健康被害が認められていないため、健康増進法でも特別扱いされ、巧みでかつ強力な企業戦略を反映し国内のシェアも急速に伸ばしている。2019年7月に、WHO=世界保健機関は、近年普及している火を使わない「加熱式たばこ」について、有害物質が少ないことが強調されているものの、必ずしも健康上のリスクを軽減させることにはつながらないと指摘し、従来のたばこと同じように規制をするよう呼びかけた。こうした状況の中で、医療専門職としての知識と経験を生かし、エビデンスに基づく正確な知識の普及を図ることが必要である。教育現場への介入や喫煙率の高い世代へのアプローチ、さらには行政への働きかけは引き続き行う必要がある。また、禁煙指導者養成等にも力を入れながら、普及啓発の担い手のすそ野を広げていき、最終的には「神奈川から、あらゆるタバコの根絶を目指して!」活動を強化していく必要がある。

おわりに

 神奈川会議の20年を振り返ったとき、故中山脩郎先生抜きには何も語れません。横浜内科学会のホームページ(http://hamamed.jp/drnakayama_rip01/)に掲載されている「中山脩郎先生と共に~90年物語~」を是非ご覧いただきたく存じます。中山先生は、神奈川会議の設立に深くかかわるとともに、中山医院(横浜市港南区)を開業するかたわら、地域における禁煙教育や指導者講習会、「港南禁煙・分煙を進める会」の代表を務められるなど、極めて積極的に禁煙活動にご尽力されました。講演会でも自ら受講者からのアンケートをとり、エビデンスに基づく健康教育をされていました。また行政等に対しても舌鋒鋭く自らの主張を繰り返しておらました。平成29(2017)年4月に享年90歳でご逝去されるその前日まで、翌年にお引き受けする予定の「第27回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会」について事務局で打ち合わせをするなど、精力的に活動をなさっておられました。ここに、生前賜りましたご厚誼に感謝し、謹んで哀悼の意を表します。

表1
表2

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